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Isobaric Subwoofer


前回の記事で「次はオーディオについては書かない」そう言った気がするのですが、気のせいでしょうか?


さて今回は古くからコンシューマーではLINNが、そして業務用ではVUE Acoustics、最近ではTOHO CINEMASのサブウーファーが採用している「Isobaric方式」について書きます。


低域厨の私が一番感銘を受けたGOLDMUND社のFull Epilogueもこの方式を採用しています。


何故この記事を書いたのかは、最後に書きますので、お付き合い願えればと思います。


今回はそのメリットとデメリットについて書いていきます。






1.そもそもIsobaric方式とは?

Isobaric方式とは頭の画像の様にウーファーユニットをそろばん状に配置し、片側を逆相駆動することにより、小さいエンクロージャーでもエンクロージャーによるFs上昇を影響が受け辛く、低い周波数から再生する事が可能となる方式です。


名前の由来はIso(同一)Baric(圧力)を組み合わせた造語です。

「アイソバリック」ってかっこ良い響きなので、口ずさみたくなりますよね。


ただ後述しますが、許容電力はユニットが増えるので大きくなるのですが、出力音圧が大きくなるわけではありません。

TOHO CINEMASの公式ホームページのIsobaricの説明として

アイソバリック方式はスピーカーユニットを向かい合わせで駆動させることで、通常のサブウーハーの1.5倍~2倍のパワーを発揮します。他の劇場では体験できない、空気を震わせる体感型サウンド・シアターを実現します

と記載してありますが、このパワーの定義が音圧と仮定したら「3.5dB~6dB大きくなる」と言うことになるので、立派な虚偽になります。






2.Isobaricはどの様な挙動をするのか?

Isobaricとかいう難しい名前がついてますが、挙動は至ってシンプルで簡単です。

まず

・共振周波数:Fs (Hz)

・コンプライアンス:Cms (mm/N)

・振動系質量:Mms (g)

・振動板の実行面積:Sd (m^2)有効投影面積投影面積

・等価コンプライアンス空気体積:Vas (m^3)

のユニットがあるとします。



まずコンプライアンスから、コンプライアンスは「1Nの負荷をかけた時に振動板がどのくらい動くか?」というサスペンションの柔らかさの指標です。

Isobaric方式では2つのサスペンションが一つの系をなして動くので、コンプライアンスは(1/2)Cmsとなります。



上記のユニットの最低共振周波数Fsの方程式は(1)の方程式で表現できます。

Fs = 1/2π*(Cms*Mms)^(1/2)・・・・・(1)


またCmsは1/2になりますが、2つ振動板が系をなすので2Mmsになります。

このユニットをIsobaric方式にした時の最低共振周波数Fs2は(1)より

Fs2 = 1/2π*{(1/2)Cms*2Mms)^(1/2) = Fs

となるため、最低共振周波数は一台の時と変化しません。



Vasは以下の方程式(2)で表現できます

Vas = ρ*c^2*Sd^2*Cms・・・・(2)


そしてIsobaricの実効振動面積は、一台の時の変わらないのでSd = 一定となり、そしてコンプライアンスは半分になるため(2)より

ρ*c^2*Sd^2*(1/2)Cms = (1/2)Vas

となり、Vasは半分になります。


そもそもVas(等価コンプライアンス空気体積)は何かといえば、超ざっくり言うと「エンクロージャーに取り付けた際、どれだけエンクロージャーの影響をうけるか?」と思っていただければ早いです。

これは値が小さければ小さいほど、エンクロージャーの影響を受け難いです。



以上より、上記のユニットをIsobaric方式として使用した場合の挙動は

・共振周波数:Fs (Hz)

・コンプライアンス:(1/2)Cms (mm/N)

・振動系質量:2Mms (g)

・振動板の実行面積:Sd (m^2)有効投影面積投影面積

・等価コンプライアンス空気体積:(1/2)Vas (m^3)


結果として同じユニットで同一の周波数特性を得ようとした場合、Isobaric方式を採用した方が小型化出来ます。


これこそがIsobaricを採用する最たる理由になります。



Isobaricは色々機構に種類があります。

Cone to magnet方式は日本ではタンデム方式なんて言われてますね。


ただここで誤解してはいけないのが、「Isobaricの由来の通りCone to MagnetとMagnet to Magnet方式のウーファー間のチャンバーの気圧が定圧で、フロントウーファーはフリーエアーのような挙動」を振舞う事はありません。


そして一番効率的なIsobaricはCone To Coneらしいです (by VUE Acoustic)


あくまで上記で求めたTSパラメータで求めた様に、2つのウーファーを1つのウーファーとして仮定して考えなければなりません。




次は音圧についてです。

まず能率についてですがパラレル接続にした場合、能率は10log(10)(1/2)=-3dBとなります。

同じ能率にする為には倍の電力を要します。


そして最大SPL=(Isobaric能率)+10log(10)2台のボイスコイルの耐入力

となるので±0dBとなり、変化はありません。



直感的に言えば音圧は気圧の変化であり、分割振動を加味しなければ”振動板の面積”と”振幅幅”に比例します。

上記のT/Sパラメータで定義されたようにIsobaricを採用したからと言って、実効振動板面積(Sd)は増加せず、かつXlim(ユニットの最大振幅幅)も増加しないので、最大音圧レベルはIsobaric採用したからと言って変わるわけでは無いです。


なのでTOHO CINEMASの広告がおかしいと言った意図は、こういう事です。







3.実際にやってみよう!

数式だけ出ても面白くも何とも無いですよね?

幸いにもTaxsis Worldにはユニットも場所もありますので、検証もかねて実験をして見ましょう。


3.1 適当なユニットを見つけよう!

そしてAudio Technology - 5H52を発掘しました。

実は見た目が超かっこいい強力版の5I52もあるのですが、リコーンしてあるので個体間誤差がありそうなので、今回は5H52に出てきてもらいました。

にしてもAudio Technogyの無骨なフレーム、超イカしてます。



そしてIsobaric化

良い加減すぎますね(笑)

(結局この真ん中の発泡剤は、機密性がなかったので排除しました)



3.2 インピーダンス測定(緑:1台 / 黄土:Isobaric)

まあパラレル接続なので、値が半分になるのは必然ですね。

ここでまず解るのが、Fsの変動がないという点です。



3.2 T/Sパラメータによる比較

これは昨日知った話したのですがRoom EQ Wizard、実は質量付加法でT/Sパラメータを計算してくれるんですよね。

これはMac派には非常に嬉しいですし、前々から思ってるんでけど、良い加減寄付させてください。(価値あるものにはお金払うのが敬意だと考えてるので)


・一台(Audio Technology - 5H52単体)


・Isobaric

圧倒的付加質量不足!!!

(暫くTSパラメータ必要なかったので、重り無くしちゃったんで、小銭の組み合わせでなんとか代替しました)



気を取りなおりて、2の項で算出したデータと実測データを比較してみましょう。

    1台    Isobaric 差異

・Fs:35.3Hz → 35.4Hz ・・・・・・・・0.100g(理論値:35.4Hz)

・Mms:14.17g → 28.00g・・・・・・・197%(理論値:200%)

・Cms:1.437mm/N → 0.722mm/N・・・50.2%(理論値:50%)

・Sd:126.7cm^2 →126.7cm^2 ・・・・100%(理論値:100%)

・Vas:32.72m^3 → 16.44m^3・・・・・50.2%(理論値:50%)

・Lp:88.12(W/m) → 84.49(W/m)・・・・-3.63dB(理論値:-3dB)

となりました。

概ね期待に応えてくれる結果となりました。






4.まとめ

まとめとしてメリット/デメリットをざっとおさらいしましょう。


・メリット

 ・エンクロージャーを小さくできる

 ・非線形歪みを小さくできる


・デメリット

 ・コストが高くなる

 ・アンプに低インピーダンス・ハイパワーを要求する

 ・各チャンバー容量の差異により、非線形歪みが生じる(※)

 ・コスト(経済的/電力的)パフォーマンス(出力音圧)が悪い


省スペースかつハイパフォーマンスなニーズに対して、そして安価でハイパワーなディジタルアンプが登場した昨今では、非常に相性がいいのではないでしょうか?


また昔のVasが非常に大きいユニットでIsobaricが使われていたのは、非常に納得がいきます。


(※)ユニット間のチャンバーに吸音材を入れて緩和された報告の特許有

VUE Acousticの「Cone to Coneが効率が良い」と言っていた所以はここかもしれません。




そして何故今日このブログを書いたのか?

その回答はこれ↓

以前このM&K - MPS-5410を紹介し、この独特な機構について


この底面のウーファーは正面のウーファーを逆相に接続されており(ウーファーも反転しているので正相になる)、機能としては2次歪の低減に貢献しているそうです。”


と書きました。

ただこれよく考えたら、Isobaric方式だったのでは?

なので「M&Kの貧弱なユニット&小さい筐体から、何故こんな低音が出るのかという答えは、今回書いたIsobaric所以だと理にかなってる!」


と思ったのが書く動機だったんですど、書いてる途中に気付いちゃったんです。


M&Kは底面ウーファーとフロントウーファーが外面に面してるので、同位相駆動。

なのでIsobaricでは無いと。(涙)

単純に下はEQで持ち上げてるだけだと思います(呆れ)







前回に引き続き今回も4000字を超えるなど、内容がてんこ盛りでした(普段の密度がなさすぎるだけ)


というより、ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。


次回はもうちょっとマイルドというか、書き手に優しい内容にします(笑)









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