ほんと毎日ブログ書いてますね、我ながら感心せざるを得ません。
さて今回は僕が大好き、低域の話。
部屋のモードやサブウーファーのレイアウトの話ではなく、低域の単純な指向性制御についてです。
目次
1.何故低域は無指向性なのか?
2.どのように制御するのか?
3.実際に指向性が付くのかのシミュレーション
4.実験
5.まとめ
1.何故低域は無指向性なのか?
もうこれは言うまでもない気はしますが、音には回折と言う現象があります。
これは波が障害物の陰になる部分に入り込む現象で、低周波(=波長が長い)ほど回折はおきます。
一般的にスピーカーの低域に指向性が無いと言われるのは、波長に対してスピーカーが小さいからです。
2.どのように制御するのか?
2.1ひたすらスピーカーを大きくする
1の項にて「低域に指向性が無いと言われるのは、波長に対してスピーカーが小さいから」と書きましたが、裏を返せばスピーカーの大きさを波長に対して大きくしてしまえば問題ないです。
相当なパワープレイではありますが(笑)
2.2 スピーカー(サブウーファー)を複数台使用する。
音は干渉性を持ちます。半波長(位相が180°)ズレが同じ強度で干渉した場合、音は打ち消され、音圧として認識されないです。
その干渉性を利用し、指向性をつけるというものです。
現在の主流はカーディオイド(心臓形)の音圧パターンにするものだと思います。
3.実際に指向性が付くのかのシミュレーション
さてシミュレーションです。
シミュレーションソフトにはMeyer Sound社が提供するMAPP XTと言うアプリケーションを使用します。
3.1ひたすらスピーカーを大きくした場合
スピーカーが回折する周波数は、一波長がスピーカーの大きさより長い時。
例えば20Hzであれば17m以上あれば回折は生じないと言うことになります。
ここで
・Meyer Sound 650P×15台(17.15m)
・無限大の空間(どこに設置しても自由音場が生成される)
でシミュレーションしてみました。
これが20Hz(1/3oct.)時のシミュレーション結果です。
かなりY軸方向の指向性が制御されている事が分かります。
余談ではありますが、環状のスタジアムではステージ上にこの様にサブウーファーをレイアウト。
ステージ上は煩くないが、客席には十分な音圧が取れる様なサウンドデザインも実際のライブにて行われています。
2.2 スピーカー(サブウーファー)を複数台使用する。
半波長と言っても周波数に依存します
・20Hzの半波長は8.5m(=25msec.)
同様に
・30Hz:5.67m (=16.68msec.)
・40Hz:4.25m (=12.5msec.)
・50Hz:3.4m (=10msec.)
と言った様に、周波数に依存したディレイを構築しなくてはいけません。
試しに30Hzで実践してみましょう。
使用ユニット:Meyer Sound - 1100-LFC
典型的な2台でのカーディオイドを形成する場合は
・2台間の距離は1/4λ(=2.83m)
・放射したい方のウーファーに1/4λ分のディレイ(=8.34msec.)
の処理をします。
レイアウト
実際にディレイをかけた
ただこんなにスペースを取れないケースもあり、Kiiなどの家庭用の製品などは上記の方法では実用的ではないです。
では単純に180°のズレを生じさせれば良いのでは?
実際に上とは違い、距離を1mにしてみました。
条件
・ウーファー:Meyer Sound - 1100LFC
・ウーファーユニット間の距離差:1m (=2.94msec.)
・ディレイ:16.68(半波長分) + 2.94(物理的距離差分) = 19.62 (msec.)
ウーファーのレイアウト
シミュレーション結果
まあ綺麗なカーディオイドになりました。
ただやはりセオリーに沿った方が、放射効率としては優秀ですね。
という訳で、複数台あれば低域であっても指向性を付けられることは可能です。
場所とディレイがあれば、割とどうにでもなりそうです。
4.実験
4.1 最初に
さて、2にて「低域の周波数に依存したディレイをかける必要性」があると言いました。
確かにそれがベストだとは思いますが、任意の一点だけでもカーディオイドは構築できます。
周波数とよって波長は変わりますが、音速は変わりません。
要は2台のサブウーファー間の距離差分にディレイをかけ、極性を反転させれば良いだけです。
モデルとしてはこんな感じ↓
4.2 シミュレーション
シミュレーションソフトでは、Meyer Sound のソフトであるMAPP XTを用いた。
そのソフトを用いて、実験で使うウーファーMPS-5410 と(再生周波数帯域及び表面積)近似しているMeyer Sound UMS-1Pを用いてシミュレーションを行った。
・ウーファー間の距離は 1m
・測定はウーファー前後 1m にて測定した(0 - 180°)
・各々の UMS に MPS-5410 の特性に近付けるよう、フィルターを入れた
・後ろのキャンセリングのサブウーファーは1m分の(2.9msec.)のディレイと-6dB のゲインを設定した。
(MAPP XT 上では赤色のサブウーファーに上記のセッティングを行った)
そして得られた0°/180°の周波数特性がこちら
0°と比較して180°は、周波数に依存せず-24dBという結果です。
4.3 いよいよ実験です。
この時ばかりは広い部屋でよかったと感謝せざるを得ません。
レイアウト
結果(緑0° / 紫180°)
4.4 まとめと考察
シミュレーション上では前後で周波数にそこまで依存せずに、前後の音圧差が24dBであった。
これに対し実測データでは、35Hz付近までは、ほぼ理論通りの-30dB の減衰であった。 しかし35Hz より上の帯域に関しては理論通りの結果にならなかった。
これに関して、シミュレーションソフトの MAPP XT が自由音場であり、置き場所に依存されない空間でのシミュレーション(本社に確認済)であり、実際の空間における影響を考えられ、シミュレーションと実測の乖離は、これに起因するものだと考察できる。
だが、しかし一点のディレイでもかなり広いレンジに対して指向性を付けられることが分かった。 またウーファー間の距離が半波長より長い場合(この場合で言う 170Hz 以上)に関しては、露骨に挙動が狂った。
5.まとめ
低域でも指向性が付けられる事を今回はシミュレーション/実測双方のアプローチで検証を行った。
最近Dutch&Dutch の 8C や Kii などが低域の制御をするようになった。
この製品らのウーファーが近接している理由は、もちろんスペースファクター的な側面もあるのではあるが、このようにウーファーユニットが受け持つ高い周波数においても、その指向特性が乱れないからであろうと予測できる。
またウーファーには歪みが低いものを選定しないと、高調波歪みの影響でシミュレーションとの乖離が大きくなると考えられる。
今回はこれでおしまい!!!
疲れた!!
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