最近Twitterで「吸音したら、何故か低域が出る様になった....」と仰られる方がいました。
確かに今となっては何とも思わなくなりましたが、感覚的に予想する変化と、実際の変化の乖離が大きいですね。
最初は雑に書いていたのですが、Twitter上にて「もうちょい詳しく書けや!!」と意見をいただいたので、書きます。
1.いかにして低域の閾値を定義するか?
1.1シュレーダー周波数とは?
スピーカー(3wayの場合)では、ユニットが低域/中域/高域とセパレーションしているため、感覚的に低域と中域の閾値を判別出来ます。
ですが部屋の場合はどうでしょうか?
後述しますが、まず密閉された室の中で低域が再生できるのは定在波(固有振動:以下モード)の集合体(以下モード群)によるものです。
このモード群は(一般家庭のサイズでは)、低周波になればなるほど密度が粗になります。
また、周波数が上昇するにつれて密になっていき、最終的に十分に密になれば各定在波を分離できなくなります。
この分離できなくなくなる周波数をシュレーダー周波数と言い、これが部屋における低域の上限になります。
1.2シュレーダー周波数の導出
面倒臭いので、もう書きました。
以上の事より、シュレーダー周波数はRT60と部屋の容積という2つの要素のみに依存します。
また残響時間が短く、そして部屋の容積が大きいほど、低域としてみなせる周波数が低く推移する事が分かります。
1.3実践!シュレーダー周波数の算出!
まず周波数に依存せず指向定数Q=1(無指向性)になるようなシステムを用意します。
また、フロアノイズ+60dBを確保できるようなSPLを満たすスペックも必須です。
・ニアフィールドで測定、周波数をDSPで平滑化処理
・ウーファーが無指向性になっている範疇でクロスオーバーを設定
そして得られたデータがこれ↓
JISではオクターブバンドの分解能で125 to 4000Hzなのですが、低い周波数まで見たいので、63 to 4000Hzを参照しました。
そうすると
・RT60:0.417sec.
・Taxsis Worldの容積:126^3
からシュレーダー周波数は115Hzとなります。
ただ実際にスタジオを施行されているSONAさんの見解(1)によると、シュレーダー周波数の2倍くらいまでを低域と扱うみたいです。
なのでTaxsis Worldだと230Hzまでが低域となりますね。
みんなもやってみよう!
2.低域の処理
さて、低域の処理が分かった所で対処方法を知らなければ意味がありませんね。
2章はその対処方法について書いていきます。
そもそも低域は
・部屋の寸法
・吸音率
・スピーカー/聴衆位置
で決まります。
2.1部屋の寸法
”低域の再生限界は部屋の大きさで決まる”と言っても過言ではないほど重要です。
以下の2枚をご覧ください。
このグラフ内の棒は、モードです。
このモード群の周波数は部屋の変の長さと比例し、例えば上であれば24Hzは長辺部分の一次モードであり、表現方法は(長辺D, 短辺W ,高さH)=(x,y,z)=(1.0,0)とここでは定義します。
同様に緑は(0,1,0)と言った感じです。
上のグラフ(Taxsis World)と下のグラフ(6×6×3m)ではこのモード群の密度が異なることは一目瞭然です。
このモードが重複せず可能なかぎり分離していた方が、同じ残響時間下では、周波数特性が平滑化されます。
つまり部屋の3辺が同一 or 自然数倍になる部屋はよくないです。
石井式の黄金比とは、このモード群を極力重複せず、離散させた部屋の寸法比率ということです。
部屋に関しての結論は
・部屋の大きさ(辺の長さ)= 再生可能周波数
・部屋の寸法費=周波数特性のピークディップ
に寄与すると考えてもらえれば早いです。
2.2 吸音
では4.5畳や8畳の様な、「"狭く""比率が一定"となってしまう部屋は救えないのか?」と言われればそうでは無いです。
これは上下とも6×6×3m、スピーカー/リスニングポジション一緒でのシミュレーションです。
上下は単純に吸音率(以下α)の違いだけです。
・上がα=0.0(RT60 = ∞)
・下がα=0.5
です。
実際に0.5は相当デッドなので、ある意味極端な比較ではありますが、モードで生じるピーク、そしてモードが無い帯域のディップが相当改善されています。
このモードの影響による周波数の乱れを緩和させるのが、吸音する事のメリットです。
一番上に出た「吸音したら低域が出た」の答えは「周波数特性が平滑化されて、ディップが解消されたから」というものでしょう。
2.3 吸音
吸音で一般的に知られてる素材が
・グラスウール
・ロックウール
・ウレタン
だと思います。
これは基本的には粒子速度のエネルギーを熱エネルギー変換するもので、粒子速度が最大になる部分に設置しなければ、低域おいてはほぼ無意味です。
粒子速度が最大になる場所は
・モードの節(一次モードは辺の中心、二次モードであれば辺の壁から各1/4の距離)
・壁から1/4λの距離(粒子速度と音圧の位相は90°ズレ、かつ壁面で速度0となる)
に限定されます。
基本的にグラスウールなどで低域が吸えない所以がこれです。
なので固有振動数で物体(メンブレン)を振動させたり、ヘルムホルツの共鳴管を使用して消音させたり、低い帯域を吸わせようとしている、俗にいうベーストラップです。
これは音圧に依存するので、壁面に設置する方が寧ろベターになります。
ただグラスウールなどの粒子速度型吸音材はターゲット周波数から広範囲に、ハイシェルフ的な吸い方をするのに対し、ベーストラップは吸える帯域が狭くQ値が高いので、使用帯域は非常に限定的になり、使用にあたっては吟味する必要があります。
簡単な方程式と吸い方の違いを図解するとこんな感じです↓
あと木造住宅の標準の遮音等級はは大体Dr-30~Dr-35と言われています。
この数値はあくまで壁の構造体の遮音等級であり、実際に窓が付いたり、換気扇が付くともっと実際の遮音等級は低くなります。
見て解るように、最近の高気密住宅で一般的なD-35でも、125Hzバンドは-20dBしか遮音できません。つまり壁面付近で100dBの音圧が観測されれば、80dB漏れてます。
漏れるという事は、近隣住民の顔さえ気にしなければ寧ろ良い事です。
「遮音性が良くない」=「音が外に逃げてる」=「吸音している」
という事になります。
そもそも特別防音されてなければ、そんなにシビアに考えなくても良いかもしれません。
(結果論でf特に山谷があり、モードの影響を受けてると確認できれば、後々対策すれば良いだけな様に思います。)
1.3 スピーカー/リスニングポジションのレイアウト
上述したようにモードの腹は音圧が最大(粒子速度さ最小)となり、モードの節は音圧が最小(粒子速度が最大)となります。
しかし、スピーカーのセッティングでもある程度、部屋の個性を緩和できます。
・モードの節にスピーカーを配置する
今回は(1,0,0)モードを例に上げて説明します。
下記の2つのグラフは
・上:コーナー置き、一番モードの影響を受ける場合
・下:長編の一次モードの節(長編の中心)にスピーカーを置いた場合
です。
コーナーにスピーカーを置いた場合
(1,0.0)モードの節にスピーカーを置いた場合
24Hzの部分が(1,0,0)モードに対応する周波数なので、その差は一目瞭然です。
この様にスピーカー/ウーファーの置く位置によって、かなり緩和させる事が出来ます。
Sonja XVなどの4筐体構成の最大のメリットは、低域部分の設置の柔軟さにあると思ってます。部屋の癖に合わせて、その癖を極力殺す事が出来るのです。
今回はスピーカーの位置だけで変化をさせましたが、実際にはリスニングポジションでもこの様な変化があります。
これ言っては元も子もないんですけど、正直部屋の(1,0,0)とか(0,1,0)モードに関しては対処が大掛かりになるので、DSPによる対処でいいと思います(ディップは持ち上げないでください。)
これは定性的な話なのですが、やや右肩下りの特性の方が聞いてて疲れない印象なので、モニタリングするわけでもなければ平坦にしなくても良いと思います。
P.S.
なんか最近で変なmemeが流行ってますね。
まあ変じゃないmemeなんてないとは思いますが。
という訳で作ってみました、帽子のせいでモーションが上手く動かないので、要改善ですね。
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