こんにちは。
今回はとっておきの、狂気のスピーカーApogee Acoustics社の中のミドルエンドモデル
「Duetta Ultimate」のレビューです。
「Duetta "Ultimate"なんて存在しないじゃないか!」
確かに当時はDuetta、そしてDuetta Signatureしか存在してません。
Duetta Ultimateの詳細についても、下述しますのでご安心を(笑)
それではいつも通り行きましょう!
目次
1.Apogee Acoustics ~狂気のオールリボン~
2.諸特性
3.セッティングの難しさ
4.聴感レビュー
5.まとめ
1.Apogee Acoustics ~狂気のオールリボン~
Apogee Acousticsはアメリカ発祥のスピーカーメーカーです。
まず特徴といえば、オールリボン型・ダイポールのポーラーパターンでしょう。
1Ω近くまで降下するインピーダンス故、「アンプキラー」の別称も持っています。
ただ振動板としての単一の共振点がなく、かつボイスコイル(と呼んでいいかは分かりませんが)のインダクタンスも小さいので、インピーダンス変動は少ないです。
なので、低インピーダンスに対応さえしてしまえば、鳴らしやすいスピーカーです。
実は現在のDuetta Ultimateを使用する前に、Duetta SignatureとStageというモデルを使用してました。
・1台目のApogee - Duetta Signature
(下のペットボトルが2Lのものです、いかに大きいかが分かるかと思います)
・2台目のApogee - Stage
余談ではありますが、Stageは低域のリボンが二重になっており、このサイズでもインピーダンスが高く(=鳴らしやすく)、かつ低域も上位モデルに劣らない再生能力を持っています。
そして今回のDuetta Ultimate
Duetta UltimateはApogeeに魅せられたTrue Sound Works Inc.という有志が、Duetta Signatureをフルレストア・モデファイを行ったモデルがDuetta Ultimateとなります。
DIVA Ultimateというモデルもあり
・DIVA Ultimateが$21,995 (=2,265,485円)
・Duetta Ultimateが$16.995(=1,750,485円)
※1$=103円(2020/11/7地点)
で販売されています。
さすがにレストアされただけあり、ピアノフィニッシュ塗装が施され、かつ支える脚はかなり強固な物に変更されています。
振動板の色も酸化されていないので、大変綺麗です。
ここでApogeeの動作原理について触れておきましょう。
Apogeeは振動板に直接信号が流れており
・ツイーター:左右に磁石があり、その磁界の中に振動板がある
・ウーファー:下の写真を見れば理解できる通り、振動板そのものに信号を通る経路があり、後ろにある磁石の磁界との相互作用で振動
インピーダンスを高くする為、高域は3往復。低域は2往復しています。
まあ原理からすると、フレミングの法則に順ずるので、ダイナミック型になるのでしょう。 ここまでリボン型に執着し、実現できたのは本当に狂気と労力の賜物だと思います。
2.諸特性
2-1:ニアフィールド特性
青/緑/赤:ウーファー
黄土:ツイーター
何故ウーファーの特性が3種類あるのかといえば、下記の様な話です。
Apogeeのウーファーは台形になっており、これは共振周波数を分散させてる目的を含んでいるからではないかと考えたからです。
※因みに私が所持しているMAGNEPANは、振動板こそ長方形ですが、リブが入っております。(イメージとしては琴に近い)
MAGNEPANは振動板を3分割し、距離をそれぞれズラす事で、単一の共振周波数にならない様になっております。
話を戻しましょう。
上のニアフィールド特性は
・赤:ウーファー上部
・緑:ウーファー中部
・青:ウーファー下部
です。
下方に向かうほど、低域が盛り上がり、また急峻な盛り上がりになっていきます。
なので推測としては下部に行けば行くほど、回折によって打ち消される周波数をブーストしているのかと思います。(通常のユニットでいうなら、Qtsを上昇させてる)
そしてウーファーを複数箇所で測定した物の平均をとった周波数特性が下のものになります。
こう見るとApogeeのウーファーの挙動として、Fs=30HzでかなりQtsの高いユニットと捉える事が出来ます。
オープンバッフルのユニットとしては至極真っ当な特性です。
ここでこのApogee - Duettaのバッフルの大きさが、どの程度回折するのかを「The Edge 」を用いてシミュレーションしてみましょう。
・外形
振動板の形状は若干異なりますが、(本来であれば区分求積法の様に、複数の長方形の集合体を用いて近似させるのがベストなんでしょうけど、そこは割愛でw )ただ面積は一緒です。
・シミュレーション結果
200Hzから100Hzにかけての1オクターブ区間で-3dB
~100Hzは-6dBで、回折による音圧低下を生じます。
ここでウーファーの平均化したニアフィールド特性を見ると、100Hz=50Hzにかけて6dBで増加している事がわかります。
この事から合成特性としてはほぼフラットになる事が予想できます。
このコンプライアンスの調整具合(=ダイヤフラムのテンションの掛け方)は、驚愕しました。
2-2:高調波歪み特性
・ウーファー部分
・ツイーター部分
高調波歪みも(大音量を出さなければ)、かなり優秀です。
2-3:軸外特性
正直言って、このスピーカーの軸外はどう測定していいか分からないので、とりあえず
・ツイーター軸上
・測定距離1m
の条件で軸外特性を測りました。
水平指向性が広いのは、機構が機構なので分かってましたが、ここまで変化ないともう分かんないですね........
3.セッティングの難しさ
このApogeeは非常にセッティングが難しいスピーカーなのです。
恐らくマルチチャンネルでないと、まともな特性が叩き出せません。
その最たる理由は「ユニット間の指向特性の差」にあります。
というのも
・面音源:0dB/d.d.
・線音源:-3dB/d.d.
・点音源:-6dB/d.d.
(d.d=Double Distance)
になります
概念的にはこんな感じです↓
参照URL :https://www.nikkenren.com/kenchiku/sound/pdf/glossary/ka-0500.pdf
御察しの通り
・ウーファーはある距離までは面音源(その先は線音源→点音源)
・ツイーターは線音源(ある距離以降は点音源)
となるため、同じ音響パワー(出力されている音の総和)が同一でも、リスニングポイントでは減衰差による音圧差が生じてしまいます。
まあ文字だけでも飽きるので、Duetta Ultimateの場合だとこうなります↓
これは0.1m地点での音圧100dBとした時の距離減衰の概形です。
結論から言えば、リスニングポイントでクロスオーバー・ゲインなどの諸々の設定をするほかない様に思います。
4.聴感レビュー
先述した様に、ウーファーとツイーターで距離減衰の仕方が違うので、実際にリスニングポジションにて測定し、クロスオーバーを組みました。
このDuetta Ultimateは自分でネットワークスルーで、500Hzで現在クロスさせています。
音自体は非常に実体感を感じつつも、ホーンの様な圧力は皆無です。抜けが非常にいいのです。見た目の無骨さ、前衛さとは真逆で本当に自然に耳に入ってきます。
高域に若干のアルミ臭というか、独特のブリリアンスさがあり、そこだけが玉に瑕。
他はレンジ・スイートスポットも広く、文句はありません。
まあ高域に若干の華を持たせるのは、90sのハイエンドオーディオでは割と主流な印象があるので、このパラダイムとしては真っ当な音なのかもしれないですね。
5.まとめ
彗星の如く登場し、オーディオにおける試練と快楽を同時にもたらし、パラダイムシフトを起こしたスピーカーです。
はっきり言って
・果てしない駆動力
・後ろに最低1.5mは必要
・湿度に弱い
などなど日本では推奨しにくいスピーカーです。
ですがある程度環境が整えば、これでしか味わえない、カラフルかつ極めて澄んだ音が味わえます。
様々なオーディオメーカーの創立者がApogeeに感銘を受け、ユーザーだった言われても驚くことがない、機構も音もロマンに満ち満ち溢れたスピーカーです。
他のスピーカーの追従を許さない、正にApogee(遠地点)という名前がピッタリのスピーカーです。
追伸(2021/3/23)
遂にフラグシップ機であるDIVAを導入しました!
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