まさか弩級の訪問記が連続するとは思いもしませんでした。
というのも訪問の前々日にNazo_otoko様から電話で「遊びに来ないか?」とお声かけをしていただいての急遽の訪問だったのです(本当にありがとうございます)
そこでおこがましくも、オーディオ評論家として活躍されている土方 久明様
( @Hijikata_Audio )に同席させていただく形での訪問となりました。
今回のお伺いさせていただいた理由は
・渾身のレストアを行った、JBL M9500を聞かせていただく事
・Apogee DIVAの健康診断
の2点です。
なので今回は、この2部構成で書きます。
非常に長くなる事が予測されますが、最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。
それではいきましょ!
1.伝説の名機「JBL M9500」
M9500はProject K2 S9500のスタジオモニターver.で、475Ndと1400Ndを搭載した、JBL渾身の2wayスピーカーです。
詳しくはこちらから↓
YAMAHAのスーパーツイーターも追加されてました。
約半世紀前の物との事でしたが、つい先日購入されたのかと見間違うほどのコンディションでした。
環状ダイヤフラムで、075にかなり大きな影響を受けて作られたそうです。
1.1完璧なレストア
その凄まじきレストアの行程は、是非Nazo_otoko様のブログをご覧ください↓
私もレストアをする人間ではありますが、ここまで凝った(愛のある)レストアは初めて見ました。
特にこのグレーは色むらが発生しやすく、下地処理を相当にしないとすぐ色ムラが生じてしまうのですが、それが一切ありませんでした。
1.2 音質
肝心の音ですが、緩さ皆無のソリッドそのもの。
ただ調整が上手くされており、ギリギリキツくならない、ある意味小さなライブハウスでの生ドラムを聞いてるような感覚でした。
1ホーンシステムを構築している身分として、ホーンの癖にはかなりパワープレイかつ労力を要しなくてはいけないのですが・・・・
このKRELLのチャンネルディバイダーに、M9500/S9500のホーン補正回路基盤を追加で入れることにより、ホーンの癖をキャリブレーションしています。
(ほんとホーンの調整は面倒臭いので、目から鱗でしかないです)
低域も「ズドン!」という沈むオーディオ的な音ではなく、ちゃんとテンションのかかった膜を叩いてる軽やかさがあり、38cmのホーンシステムを使用している身としては、かなり斬新な音でした。
まさに「暗い低音は好きじゃない!」というNazo_otoko様のフィロソフィーを具現化した音です。
またカートリッジの比較試聴も行いました。
お恥ずかしながら、アナログに関する知識が皆無なので、どう評価して良いのかが難しいのですが、個人的には「性能の光カートリッジ、鮮度感のVictorのカートリッジ」という印象です。
(このアーム。鶏の頭のようにアームが偏角が変わってもカートリッジがズレない機構で、すごく機能的/機械的ロマンを感じました)
1.3 余談ですが・・・・・
余談ではありますが、今日一番意外な音だったのはM9500の隣にある、Project Evelest DD65000です。
Nazo_otokoさんの情熱は凄まじく、このDD65000はなんと特注でEXACT化されており、低域はこれでもかというほどのパワーを放ち、かなりアグレッシブに。
ただ破綻などは皆無で嫌味などなく、聴きやすかったです。
今まで聞いたDD6X000の中では屈指の再生音で、個人的には好きではなかったEvelestに対する見方と、自分の機材に対する可能性の予知能力の低さに絶望を感じました。
お部屋といい、機材といい、それを超えるNazo_otoko様のバイタリティといい羨ましい限りです。
2.Apogee Acoustics - DIVAの紹介 & 調整
さて今回の目的はもう一つあります。
それはApogee Acoustics - DIVAの健康診断と調整です。
ここはメインの部屋ではなく、院長室なのですがDIVAに加えてLumen WhiteにDS-10000とここだけ切り取っても、本当に豪華そのものです。
そしてこのDIVAはオールドKRELLで駆動、チャンネルディバイダーはApogeeのDAXのマルチアンプ駆動。このパラダイムとしては最上級のコンビネーションです。
さて本題に移りましょう。
2.1 周波数特性
DIVAのニアフィールド特性ですが、任意の5ポイントを平均化しました。
この手法は私が以前Duettaを測定した際のものを踏襲しています。
これを見るにクロスオーバーは350Hzと12.5kHzとなっています。
海外のフォーラムによれば(※)、DIVAのクロスオーバーは550Hz/12kHzらしいです。
ただこれは何ポイントで計測した値なのか、はたまたElectrical Slope or Acoustic Slopeのの話かは不明なので、なんとも言えないです。
Apogeeは難しいですね。
(※)HFA Apogee DIVA - info
https://www.hifi-advice.com/blog/apogee-acoustics-company-special/apogee-diva-info/
さてここで私が所有しているDuetta Ultimate(Duettaの完全リペアモデル)の特性と比較してみましょう。
Duettaのウーファー部分はFsが30HzのQtsが非常に高いユニットとして捉えることが出来ると以前の紹介の際に話しました。(※2)
一方DIVAも設計思想としては酷似しており、20Hzに高いQtsの共振をもつユニットとして捉えることが同様に出来ます。
加えてやはり軽いリボン言えども、私のDuettaも高域は15kHz以降は減衰しています。
それを補填するためにDIVAは3way(運用的にはスーパーツイーターのそれに近い)にすることによって解決しています。
やはり上位モデルは考えられてます。(悔しい)
(※2)Apogee Acoustics - Duetta Ultimate
2.2 位相特性
またApogeeは位相回転が非常に少ないのも特筆すべき点です。
・Low~Mid間(青:ウーファー / 黄土:ミッドレンジ)
・Mid~High間(黄土:ミッドレンジ / 赤:ツイーター)
低域〜中域間は約100°の位相差、中域〜高域間は30°がありますが、位相自体がかなりフラットなのが分かります。
ユニット間位相差に関しても、ある程度補正は可能で
・ウーファーに0.6267msec.
・ミッドにに0.0067msec.
のディレイをかけることにより、クロスオーバーポイント(450Hz / 12kHz)におけるユニット間位相差は0°になります。
なので適切にディレイを構築すればさらにつながり感と、空間表現の向上が期待できます。
Apogeeはこんな特性なのでインピーダンス補正がいらない、教科書通りのLCRネットワークで組めるのは、本当に良いですね。
2.3 周波数対歪特性
・Woofer
・Midrange
・Tweeter
以前のTake邸のメインシステムの歪率が非常に低かったので、相対的に高く見えますが、それでもMidramge / Tweeterは非常に優秀な歪率特性です。
2.4 周波数特性補正 at Listening Point
・補正前
何かのゲイン調整が間違われていたのか、Rchの高域のSPLが非常に高くなっています。
今回は専属のチャンデバ兼EQのDAXを用いて補正しました。
・補正後
2バンドかつQ値固定のEQなので、シビアに整合性をとるのは無理でしたが、まあだいたいこんなもんでしょう。
もう少し個人的にはDAXのUIを知って、詰めていきたいです。
余談ですが、このDAXは興味深い「Rake Control」なる調整機能が付属しています。
このRake Controlとは、デッドな環境などで少し地味な音になってしまった場合。
5kHzを中心とした(下は1kHz~) 、0.5dB/step(Max 4step)で調整でき、明るさのコントロール「‘brightness’ adjustment」を補正できるそうです。
このお部屋は割とライブなので、このRakeの必要はないと思い、この補正はしませんでした。
2.5 健康診断
さてここからが健康診断です。
Apogeeはご存知の通り、非常に繊細なスピーカーシステムなので、健康診断は必須になってきます。
今回はインピーダンスカーブから、左右間特性差を観測しました。
・Woofer
・Midrange
・Tweeter
Midrange / Tweeterに関しては、(小音量出力時では)左右の個体間差は非常に少ないです。
Midrange / Tweeterの30Hz以下でインピーダンスに差分があるのは、恐らく風によるダイヤフラム振幅の影響なので(あとそもそも使用する帯域ではないので)、問題はありません。
ただウーファーに関してはLchの50Hzと150Hzにインピーダンス上昇が見受けられます。
恐らくここがNazo_otoko様が仰られてた「低域の歪み」は生じている周波数です。
いくら状態の良いDIVAでも、特にセンシティブなウーファーは経年劣化には勝てないようです。
2.5 調整後
調整後の録音を撮って見ました。
歌姫と冠されたそのスピーカーの名前に、嘘偽りはありませんでした。
3.終わりに
最後に希少木材である「ハラカンダ」を使用したギターを演奏していただきました。
スプルースで構成されるお部屋の特性と相まって、非常に芳醇かつ端正すぎない音はやはりオーディオマニアが忘れていた「生音の重要性」という要素をマジマジと突きつけられました。
前回のTakeさんといい、Nazo_otoko様といい、素晴らしいシステムや音の背景には、常に生音が存在し、その経験こそがシステムの礎となっているんですよね。
やはり技術と感性、双方のアプローチがなければ自分の軸を確立するのは難しいですし、ここは私は今後勉強しなくてはいけないです。
Nazo_otoko様、土方様
本日は貴重なお時間の中、お付き合いいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。
Comments